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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)28号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大和勝栄、同小泉英一の上告理由第一点について。

しかし原判決引用の甲一号証(賃貸借契約の公正証書)には、賃貸借期間満了のときは賃借人(上告会社)が改築した本件家屋は賃貸人(佐々木晴雄)に無償にて引渡す旨の記載があり、かつ右賃貸借の期間が二〇年であることは当事者間に争のないところであるから、原判決がこれらの事実により、本件家屋の所有権は右二〇年の期間の経過とともに贈与により賃貸人である佐々木晴雄に移転したものと認めても、これをもつて必ずしも経験則違背または理由齟齬の違法ある認定となすことをえない。所論の如き約定が存する事実は未だもつて右の結論に影響を及ぼすものといい難く、論旨は畢竟単なる事実誤認を非雄するに帰し適法な上告理由となすをえない。

同第二点について。

論旨は本件賃貸借につき期間の更新があつたと主張する。しかし原判決の引用する第一審判決は、本件賃貸借契約には二〇年の期間満了と同時に建物の所有権が賃貸人に移転する、という趣旨の特約を含むと解し得ること前記のとおりである。そうだとすれば同判決が「合意に因る賃貸借の更新が行われなかつた以上(同判決は、かかる更新契約の成立を確認するに足るべき証拠はない、と判示している)、右の特約に因つて賃貸借期間の満了と同時に本件建物の所有権は賃貸人に移転したのであるから、これに因つて建物所有を目的とする従前の上告人の賃借権はその目的を喪失し、当然消滅するの外なきものである、従つてその後に上告人の主張するが如き法定更新を生ずる余地はないというべきであると判示しているのは正当である。もつともこのように法定更新を排除して最初に定めた期間の満了と同時に借地権者の建物を賃貸人に贈与する特約は、建物の所有を目的とする通常の土地賃貸借においては、借地権者に不利な契約条件を定めたものとして無効な場合もあろうが、第一審判決の認定するところによれば、上告人は、契約の始めにおいて賃貸人所有の建物を取壊すという通例では困難と思われる条件を特に承諾してもらつた代りに二〇年の期間満了と同時に贈与することを約したと認められるこのような場合には必ずしも借地権者に不利益な条件を定めたものとは認められない。論旨は理由がない。

同第三点について。

所論の点については、第一審で再開して釈明し、被上告人が請求の趣旨を論旨指摘の如く訂正し、上告人はこれに対して、異議はない、と述べている。訴の変更についての書面の提出または送達の欠缺は、被告の責問権の喪失によつて治癒されると解すべきであるから、所論援用の判例は本件の例とするに足らず、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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